僕は日本犬で赤茶色した柴犬なんだ。僕にはまだご主人がいなく名前もないんだ。赤茶色の毛の犬だから皆んなは僕のことを「アカイヌ、アカイヌ」と呼んでいるが、そのうち新しいご主人に仕え、立派な名前を付けてもらえると思っているんだ。

将来僕のご主人になってくれるであろう女王様が一昨年(1998年)八ヶ岳南麓に『アカイヌ王国』を建国したんだ。『アカイヌ王国』のご主人だから僕は女王様と呼んでいる。建国の目的は、人間が出す産業廃棄物や空気の汚染、無駄な開発などにより地球が荒廃していくのを見かねて、「美しい自然を守り、またそこで暮らす野生の動植物を保護する」というのが目的らしい。というのは表向きで本当は静かな山の中で赤茶色の柴犬と暮らしたいらしい。金を残して死んでもつまらないと言って定年退職したのを機に退職金をはたいて、足りない分は借金jまでして建国にこぎ着けた。

 王国の一角に可愛い小さなお城(ログハウス)を建てて、ひとりの下僕を雇い活動を始めたんだ。お城の建設にあたっては出来る限り自然を破壊しないように最小限の広さのものにした。したがって一般の人が見たらこれがお城かと吃驚するほどの建造物である。また、生活するため内部の整備が必要で下僕を雇ってはいるが、この下僕は少し年を取っていて僕のようには働くことが出来ない。僕が家来になるまでの間なんとか出来るだけのことはやってもらわないと困る。そう言うわけで今のところ活動らしい活動は行っていない。この一年間は『王国』内を隅々まで視察するのに忙しいようだ。お城の名前は「アカイヌ山荘」という。どうも『王国』の名前といい、「お城」の名前といい僕の今の呼び名に関係しているような気がする。

 お城(ログハウス)の材料は遠くフィンランドのラップランドのあたりの木(パイン)だそうで、シベリア鉄道とロシアの船で日本海を渡り横浜港に着いたんだって。横浜から王国まではトレ-ラ-で運んでもらったが、お城の建設地までは大きい車が入らないので苦労したそうだ。

 女王様はフィンランド語をフィンランド人の先生について勉強しているがまだまだ話せるようにはなっていない。女王様も年のせいか新しいことがなかなか覚えられないらしい。そこで日本の 会社を通して向こうのログハウスを扱っている会社に話をつけてもらったとのことである。

(1999.8)